漫画感想「うしおととら」文庫版第11巻 

うしおととら (11) (小学館文庫)

 藤田和日郎の「うしおととら」文庫版11巻を読了。今回収録されているのは第三十章「愚か者は宴に集う」の後半、第三十一章「ブランコをこいだ日」、第三十二章「うしおととらの一年事始め」、そして第三十三章「外堂の印」の途中まで。

 「愚か者は宴に集う」はアニメでも描かれた話でしたが、改めて見て面白いと思ったのはたゆらとなどかが人の姿をとって現れた理由でした。彼らが語る通りそれは「姿、形を「人」に似せれば、人間の不思議が理解できると思った」からなわけですが、それでは答えは得られなかった。面白いことにこの話、とらも人の姿をとって現れているのですよね。街中を探すために真由子そっくりに化けて。でもそれで真由子の気持ちが分かるわけじゃない。たゆらとなどかを二手に分けるために再び化けても、彼らの質問に答えられるようにはならない。ただ真由子の命がけの行動だけが、たゆらとなどかの問いに答え、とらに真由子という個人を認識させる。この章はとらが人の心を知る回だったのだ、というのを改めて感じました。

 続く「ブランコをこいだ日」は本作でも特に泣ける物語の1つに数えられているそうで、実際切ない読後感に襲われるお話でした。何が切ないって紫暮の「戦いは、敵の気持ちを理解したら負けるのだ」という言葉が全体に通っているのが切ない。この言葉自体はさとりが人の目玉を奪う理由を知ってためらううしおへの忠告ですが、その後も敵の気持ちを理解することは本章において大きな影響をもたらしています。
 他人の目玉でミノルの目が治ると誤解していたさとりは、「そんなことをしても治らない」「なんでこんな方法しか思いつかなかったんだ」といううしおの気持ちを理解し動揺する。さとりの死のきっかけとなったこの理解は1つの「負け」。
 死にゆくさとりの、ミノルが自分のことをお父さんと言ってくれるだろうかという問いに、うしおは「あったりまえだろ!」と嘘をつく。彼がどんなにミノルを愛していたかを理解していたから、うしおはそう言わずにおられなかった。頑固な彼に自分を曲げさせるその理解もまた1つの「負け」。
 そんなうしおの優しい嘘もさとりはその能力で見抜いてしまう。けれど、その事がうしおの心根をさとりに教え、彼に温かな気持ちで最後を迎えさせる。うしおがミノルのように優しいと言わせてしまうその理解は、さとりにとって最後の「負け」。
 そして、うしおとさとりの嘘に気付かない、気持ちを全ては理解できないミノルはこの物語でそれ以上傷つくことは無い――少し嫌な言い方をすれば「負ける」ことはない。でも、それがうしおとさとりの望みなのです。2人が負けあうことで、ミノルは幸せの中にいることができる。
 物語の最後にうしおはブランコをこぎ、そこから飛び出して落ちます。子供のおもちゃから飛び出て痛い思いをする。それは、嘘をつかないという自分の子供っぽさから抜け出たうしおの心の痛みと同じことなのかもしれません。……でも、この解釈だったら「ブランコから飛んだ日」のタイトルでもいい気もするんだよなあ……先輩諸氏はこの「ブランコをこいだ日」というタイトル、どういう意味が込められていると考えてきたのかしらん。

 また、本巻ではまだ話の途中ですが、「外堂の印」は「自分にないものを欲しがる」というお外堂さんの性質が、そのかつての祭り人にもゲストヒロインの水乃緒にも通じているのが面白いですね。50年前はぐれお外堂さんを連れて村を出た女は、厳しい世界の中で自分にないものを欲しがった。祭り人として育てられ他の人のように生きてこられなかった水乃緒は、同じく特別な力を持ちながらも屈託のないうしおの姿に激しく動揺する(おそらくそれは羨んでいるということだ)。敵も味方も同じものを使うことが両者の共通の性質になる……というのはよくできた構図であると思います。というかうしお、お前アニメに出てた娘以外にもフラグ立ててたのかよwww

 今回は個々の章の独立性が強く、感想もそれぞれに語る内容となりました。はてさて、次の12巻はどんな物語が待ち受けているのかな。


関連:
うしおととら 第1話「うしおとらとであうの縁」
うしおととら 第2話「石喰い」
うしおととら 第3話「絵に棲む鬼」
うしおととら 第4話「とら街へゆく」
うしおととら 第5話「符咒師 鏢」
うしおととら 第6話「あやかしの海」
うしおととら 第7話「伝承」
うしおととら 第8話「ヤツは空にいる」
うしおととら 第9話「風狂い」
うしおととら 第10話「童のいる家」
うしおととら 第11話「一撃の鏡」
うしおととら 第12話「遠野妖怪戦道行~其の壱~」
うしおととら 第13話「遠野妖怪戦道行~其の弐~」
うしおととら 第14話「婢妖追跡~伝承者」
うしおととら 第15話「追撃の交差~伝承者」
うしおととら 第16話「変貌」
うしおととら 第17話「カムイコタンへ」
うしおととら 第18話「復活~そしてついに」
うしおととら 第19話「時逆の妖」
うしおととら 第20話「妖、帰還す」
うしおととら 第21話「四人目のキリオ」
うしおととら 第22話「激召~獣の槍破壊のこと」
うしおととら 第23話「永劫の孤独」
うしおととら 第24話「愚か者は宴に集う」
うしおととら 第25話「H・A・M・M・R~ハマー機関~」
うしおととら 第26話(最終回)「TATARI BREAKER」
うしおととら 第27話「風が吹く」
うしおととら 第28話「もうこぼさない」
うしおととら 第29話「三日月の夜」
うしおととら 第30話「不帰の旅」
うしおととら 第31話「混沌の海へ」
うしおととら 第32話「母」
うしおととら 第33話「獣の槍破壊」
うしおととら 第34話「とら」
うしおととら 第35話「希望」
うしおととら 第36話「約束の夜へ」
うしおととら 第37話「最強の悪態」
うしおととら 第38話「最終局面」
うしおととら 第39話(最終回)「うしおととらの縁」

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漫画感想「うしおととら」文庫版第8巻
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Posted on 2016/09/14 Wed. 23:11 [edit]

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コメント

こんばんは、お邪魔いたします。towaです。
アニメの方の感想は勿論、うしおととら漫画の感想も毎回本当に興味深く拝見しております。

今回の感想を拝見して、「ブランコをこいだ日」ってサブタイ大好きなのに、なぜこのタイトルなのかは殆ど考えなかったことに初めて気付かされました。
そうですよね、凄くいいサブタイだと思ってたくせに具体的な理由は考えなかったwとても新鮮でした。


私個人がこの話で一番印象的だったのが、いわゆる一般的な少年漫画らしくない「どうあっても結論の出ない話」だということです。
そして、ブランコのシーンはこの話の縮図そのものかな、と思っています。
ブランコはその場を行ったり来たり、どれだけ漕いでも全く前に進まない。ブランコを漕ぐという行為=どれだけ考えても答えの出ない問題を延々と考え続けている。飛び出す=決断する。決断すれば必ず痛い思いをする。

と、このシーンを、私は昔から何となくそんな風に感じていました(そしてそこで思考停止)。
そんなわけで、私のこの話に対する印象と実際のサブタイが「停滞している部分」で一致していたので、サブタイに対して全く疑問を持たなかったのかもしれません。
自分の場合「嘘をつくつかない」の部分を失念しているので、どこまで符合しているか怪しいものですがw


あまりに単純な考えで参考になるかどうかは分かりませんが、私個人の解釈はこんな感じで限界ですwこれ、色んな方の解釈読んでみたいですね。
闇鍋さんの感想はいつも新しい発想をくれるので考えさせられます!
また新しい感想も楽しみにしております。

towa #sSsytDpA | URL | 2016/09/17 02:09 * edit *

>towaさん

 コメント、というか助言ありがとうございます。

 サブタイに関するお考え、とてもしっくり来ます。そうか、そうですね、ブランコに乗っている間は答えが出ないんだ。その性質に目を向けるべきでした。そう考えると、うしおがこの話で<b>「バカヤロォ!」</b>と叫びに叫んでいたのが納得できます。それ以上の言葉にできなかったんですね。答えが出ない問題であることに力点が置かれているのであれば、「飛んだ」ではなく「こいだ」になるのもとても自然ですから。
 やっぱり、他の方の見方に助けられるって大きいものですねー……軽く検索してみる分には副題への言及ってほとんど見受けられなかったこともあって悩んでいたのですが、おかげでとてもスッキリしました。ありがとうございます。本当、他の方の意見も聞いてみたいですね。
 巻数的には半分を少し超えた所、今後も一緒にお付き合いいただけましたら幸いです。

闇鍋はにわ #dvQckJnQ | URL | 2016/09/18 14:16 * edit *

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