追いかけるから/クロムクロ26話感想
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夢と現実の境はあいまいで、だからそこに可能性がある。
申し訳ありませんが、土曜出勤のためコメント返信は追ってまた……(ヽ´ω`)パタリ
クロムクロ 第26話(最終回)「侍は振り返らず」
©クロムクロ製作委員会




ゼルの星へ向かおうとする剣之介を、追いかけることを決めた由希奈。果たして彼女は、剣之介に追いつくことができるのか……愛は時を超え夢は遥か彼方へ。最終回。
完結となる今回は、由希奈達と国連の間で「物語のせめぎあい」が行われているのが印象的。
まず由希奈の駆け落ちは、家族への面会という侵入手段に始まり、国連が酷いことをしていると煽動する美夏、火事を装う赤城、セキュリティを貼り替え幽霊を装う茂住など、一貫して「偽ること」、カルロスの言うところの「ストーリー」、すなわち物語によって構成されています。ついでに言えばゼルが自分で外せる首輪を誠意として着けていたのも「物語」ですね。一方で国連の人々もゼルやムエッタに関する情報を隠して彼らが「拘束されていない」という物語を作ろうとし、またトムは「未来に対する現在」という物語を用意して剣之介と相対する。どちらも抱えているのは「物語」であり、そしてそれは単語以上に広範な解釈が可能なものです。なぜなら物語とは非現実であり、非現実は先週の感想の柱ともした「夢」なのですから。
そしてせめぎあう物語のどちらに軍配が上がるかのキーワードは、剣之介が冒頭語るところの「気持ちの嘘偽り」にあります。実は作戦を遂行する気がなかったトム、拘束の裏に若者を死地に追い込みたくないという思いもあったグラハムは、共に用意した物語を破綻させてしまう。これは実際には剣之介にも言えることで、由希奈を置いていくという彼の「物語」には実際は断ち切れない由希奈への愛情があったわけだから、逆に思いを嘘偽らなかった由希奈にある意味根負けすることになる。
「現実」は甘くなく、由希奈は剣之介と共にワームホールを超えることは叶わなかったわけだけど、由希奈はそれにくじけることはない。追いかけることを、追いつくことを告げ、剣之介も待つことを受け入れる。それは離れ離れになるという「現実」を、「物語(夢)」が超えようとする気高い姿です。
「現実」と「物語(夢)」は一件相反し、実際、それと重なるように映像に関して茅原とカルロスは相反する言葉を発します。茅原は映像を加工することを拒み「現実」を最重視するわけですが、カルロスは逆に剣之介の戦いという「物語」を伝えるためにただの配信を否定する。ですが、これは矛盾しているわけではありません。現実味がなくては物語はそもそも成立し得ないが、現実だけではこれもまた物語は成立しないからです。物語は現実を逸脱するのではなく超えるもの――2人が相反する言葉を発する姿に、僕はそう思うのです。序盤から茅原やジローを通じて「映像」を強調してきたこと、カルロスが勝手に作ったコスロムがボロカスに言われたこと、逆に本気で作った「魔性の煉獄球団 シュトルゥム・ウント・ドランク」が曲がりなりにも夢のような一瞬を切り取り最後に多くの人の反応を誘うことなど、全部ここに繋げられるんだなあ……
5年の歳月を経て由希奈の物語は現実を越え、剣之介の支援調査に旅立つわけですが、それは終わりではありません。かつて由希奈の夢だった火星が中継地となったように、夢も現実も続いていくのですから。目的地の先に何があるのか、夢が夢で終わるのか現実を越えられるのかは8話や9話で特に強くピックアップされていたように「実際に見てみなければ分からない」。
かつて僕は18話でカレーを本作の作品性の例えとして解釈した際、正直に言うと「色んなものが混ざっているとは思うけど、派手なカレーよりは肉じゃがかな」……なんて思っていたりもしたのですが、最終2話で更に大きくテーマが広がっていった姿は、たしかにカレーと呼ぶのがもっともふさわしい渾然一体さであったと感じました。こんなに多くのものを感じ、受け取れるとは視聴前は思ってもみなかったです。
本当に本当に、素敵な作品でした。あれこれ書いては見たけれど、どうにも感情が溢れて止まりません。格好良かった。かわいかった。楽しかった。感動した。いくつ並べても足りませんが、幾度でもそれらの賛辞を贈りたい。由希奈の確かめに行く先に、過去の人間であった剣之介が確かに未来に生きられる「夢」があることを願って。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
関連:
クロムクロ 感想リスト
クロムクロ 第1話「鬼の降る空」
クロムクロ 第2話「黒き骸は目覚めた」
クロムクロ 第3話「城跡に時は還らず」
クロムクロ 第4話「異国の味に己が境遇を知る」
クロムクロ 第5話「学び舎に来た男」
クロムクロ 第6話「神通の川原に舞う」
クロムクロ 第7話「東雲に消ゆ」
クロムクロ 第8話「黒鷲の城」
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クロムクロ 第10話「不遜な虜」
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