小説感想「うしおととら」1巻 

うしおととら (ガガガ文庫R)

 藤田和日郎の漫画を元に中山文十郎が手がけた小説版「うしおととら」1巻を読了。連載時にスーパークエスト文庫から発刊されていた4編の小説を、2冊にまとめてガガガ文庫から復刻したものですね。収録されているのは「我は冥界に斬り結ぶ」と「妖美術(バケモノ美術) アート・オブ・ダークネス」。


 「我は冥界に斬り結ぶ」は妖刀・いさなとの対決を宿命付けられ、聖剣・白南風を操る少女、八十神史帆をヒロインとしたストーリー。当然のようにうしおがフラグを立てるw が、そのきっかけや妖刀・いさなとの決着がややボンヤリしていてるな……というのが読後の正直な印象だったのですが、ちょっと時間を置くと構図がとても美しい作品だと感じました。白南風という短刀によって破邪の力を得るという史帆の設定はうしおに重なる部分のあるところですが、実の父が妖刀・いさなに操られ殺人事件を起こした過去を持つ史帆の過去は陰影に満ちていて、屈託のないうしおとは真逆の性質を持っています。そして槍の伝承者候補などのように使命に殉じる事に心を浸しきってもおらず、その心には常に悲しみが渦巻いている。そんな娘をうしおが、麻子が、真由子がほっておけるわけがない。うしおが獣の槍をきっかけに非日常に足を突っ込んでいくのに対して、史帆はうしお達との出会いで心に日常を取り戻していくのです。

 そして、史帆は自分はいさなを破壊する宿命に縛られた存在だと自分を思っていたけれど、実際は宿命付けられていたのは兄の興信の方で、興信は最後にそれを明かして散ってゆく。厳しく当たることもあったけれど本当は、非日常的な日常に身を浸し続けなければならなかった史帆が、普通の女の子に戻れる日を夢見ていたことを語りながら。うしお達が史帆の心に日常を取り戻したのに対し、興信は史帆の体(血統)から宿命を奪ってこの世を去っていく。とてもとても悲しいことだけど、死にゆく兄と最後に心を通わせたあの瞬間、史帆は普通の女の子に戻ったのだと思います。

 であれば、史帆はもううしお達の側にいてはいけない。白南風という力を持つ彼女が非日常に踏み込んでいくうしおと共にいれば、彼女もまた再び非日常に戻ってしまう。「普通の女の子」ではいられなくなってしまう。だから史帆は、最後に1人で旅立ってゆかねばならなかったのだと思います。……今後の展開を知っている分には、白面の者との戦いが日本全土を巻き込む以上は彼女がもう一度白南風を抜く日が来ないわけはないんですが。というかなんでうしおが獣の槍に取り込まれた時に史帆も呼ばないんだよジエメイ!(無茶言うな) ただまあそういった事があっても、何があっても。彼女が普通の女の子として過ごせる未来であってほしいと願わずにはいられない1編でした。


 また、収録されているもう1編、「妖美術(バケモノ美術) アート・オブ・ダークネス」はかがりと雷信をゲストに迎え、殺羽という強力な法具を操る三廻部秌との激闘が繰り広げられる……という話ですが、この三廻部秌の存在がとにかく強烈。獣の槍の伝承者候補であり、命を削る法具・殺羽を操り、絵描きになりたかった夢を持つ彼が女郎蜘蛛・魅繰と種族を越えて結びついている姿はうしおの対であり、うしおととらの対であり、うしおと麻子の対であり、とらとかがりの対でもある。それらの要素を全てまとめてマイナスに反転させてしまったのが秌と魅繰というキャラである以上、反射されるそれぞれが強烈な輝きを放たないはずがないわけで。「我は冥界に斬り結ぶ」がうしお達によってオリジナルのキャラを活かす話なのに対して、こちらはオリジナルのキャラがうしお達と互いに引き立て合うお話と言って良いのではないかと思います。(少なくともアニメを見る分には)さっくり放置されてしまったかがりのとらへの恋心を補完する意味でも良いお話でした。

 しかし劇中で紫暮が「女の子が欲しかった、霙と名前も決めてた」とボヤいてましたが、いいんじゃないかなあ、物語が終わった後、うしおに妹ができても。そんなことになった時の皆の、特にうしおの嬉しそうな顔を想像すると、それだけで僕の顔はにやけてしまうのです。

関連:
うしおととら 第1話「うしおとらとであうの縁」
うしおととら 第2話「石喰い」
うしおととら 第3話「絵に棲む鬼」
うしおととら 第4話「とら街へゆく」
うしおととら 第5話「符咒師 鏢」
うしおととら 第6話「あやかしの海」
うしおととら 第7話「伝承」
うしおととら 第8話「ヤツは空にいる」
うしおととら 第9話「風狂い」
うしおととら 第10話「童のいる家」
うしおととら 第11話「一撃の鏡」
うしおととら 第12話「遠野妖怪戦道行~其の壱~」
うしおととら 第13話「遠野妖怪戦道行~其の弐~」
うしおととら 第14話「婢妖追跡~伝承者」
うしおととら 第15話「追撃の交差~伝承者」
うしおととら 第16話「変貌」
うしおととら 第17話「カムイコタンへ」
うしおととら 第18話「復活~そしてついに」
うしおととら 第19話「時逆の妖」
うしおととら 第20話「妖、帰還す」
うしおととら 第21話「四人目のキリオ」
うしおととら 第22話「激召~獣の槍破壊のこと」
うしおととら 第23話「永劫の孤独」
うしおととら 第24話「愚か者は宴に集う」
うしおととら 第25話「H・A・M・M・R~ハマー機関~」
うしおととら 第26話(最終回)「TATARI BREAKER」
うしおととら 第27話「風が吹く」
うしおととら 第28話「もうこぼさない」
うしおととら 第29話「三日月の夜」
うしおととら 第30話「不帰の旅」
うしおととら 第31話「混沌の海へ」
うしおととら 第32話「母」
うしおととら 第33話「獣の槍破壊」
うしおととら 第34話「とら」
うしおととら 第35話「希望」
うしおととら 第36話「約束の夜へ」
うしおととら 第37話「最強の悪態」
うしおととら 第38話「最終局面」
うしおととら 第39話(最終回)「うしおととらの縁」

漫画感想「うしおととら」文庫版第1巻
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Posted on 2016/10/18 Tue. 00:00 [edit]

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