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小説感想「うしおととら」2巻

うしおととら 2 (ガガガ文庫R)

 藤田和日郎の漫画を元に中山文十郎が手がけた小説版「うしおととら」2巻を読了。1巻同様に2編の小説を1冊にまとめたものであり、こちらは「風霜に舞うひとひら」「妖(バケモノ)病棟」の2編が収録されています。


1.風霜に舞うひとひら
 前半に収録されている「風霜に舞うひとひら」は獣の槍の伝承者候補の1人、関守日輪を迎え繰り広げられる物語ですが、いくつもの対を重ねることで「人間性の大切さ」とでも言うようなものを訴える内容がとても心地よい。対、ということで考えやすいのはゲストヒロイン・咲を「共通の妹」とするうしおと日輪、そして日輪と彼女に過去の自分を重ねる白煉の組み合わせがそれだけで素敵ですが、白煉の操る妖・訃玄からもそうしたものは見出だせるように思います。
 訃玄はお面に妖怪が取り憑いた妖が人形を操っているという敵で、腕や足が8本あるとか生えているといった異形の性質は持ち合わせていません。姿だけなら人間的な妖怪と言っていいでしょう。けれどその存在には意思というものがまるで見えず、その体はバラバラになっても獲物を襲う――人間のような姿をしながら「人間離れ」している。それはうしおととらが異形の姿を持ちながら、極めて人間的なやりとりをしているのとは真逆の性質です(だから同じ人間と妖怪のコンビでありながら、白煉の相手は日輪、訃玄の相手はうしおととらとなる)。

 そして、人の姿をしながら人ではない、バラバラになっても相手を襲う……という訃玄の性質は、深月を私欲のために使うようになり、亡者にまで落ちた霧澤の村の人々の姿と重なるし、それは最終的には深月の力によって不死となった存在・梶尾宗六にまで通じるものです。彼はその不死性によって人間ではないとされて深月の里に弾かれるわけですが、実際はそれ以上に心根が既に人間ではない。そしてそんな宗六と「真逆に」、咲は半分人間でないという出自を持ちながらも細かな事に悩み、楽しみ、学ぶ豊かな心を持ち合わせています。それはきっと、白煉が心の中にしまってしまい、日輪がともすれば律しようとしてしまうものですが、それがなければ人間ではいられない。

 女を捨てたつもりで胸をはだけられても隠しもせず、うしおをしごく姿はまるで羅刹かなにかのような日輪も、実際は痛みも悩みも優しさも抱えている。咲と白煉はそれぞれ別の形で日輪の柔らかい部分――人間性を引き出す、とても素敵なゲストであったなと思います。


2.妖(バケモノ)病棟
 収録されているもう1編、「妖(バケモノ)病棟」は裏表紙で「異色作」とうたっているのですが、読んでみると実際異色だった。こちらは急性盲腸で入院した麻子が病院で見る怪異……といった趣で、他作品のように強い力を持った誰かが出るわけではないのですが、多くの登場人物がある特徴を持っているのが面白いです。それは「うしおと麻子の時間軸ををずらしたようなところがある」ということ。

 麻子の四つ上の従姉妹の由布子は「麻子が4つ歳を取るとこうなると想像される」と言及されるほどよく似ていて、麻子と同じく急性盲腸にかかった経験がある。麻子と同じ病室の少女・舞は麻子と同じような髪型で、うしおに対して「クラスメートの秋元くんに似ている」という印象を抱く。麻子のベッドにかつていて死んでしまった少女・近藤明恵は麻子と同じように舞と仲良しになり、またこれまた麻子と同じような髪型ではつらつとした少女だった。更にはさして出番のないナースの大谷までもわざわざ「学生時代は麻子と同じ陸上部だった」なんて言及がある。かたやうしおの方は今回行動を共にする級友に高橋という少年が登場しますが、彼はうしおと「真逆の性質」を持つ少年でありそれゆえに仲が良い……という設定。そして、かつて自分と「真逆の性質」を持つ友人、中川を救えなかったという過去を抱えている。
 今回の話の舞台となる妖病棟――緋立病院の中では死人の時間が止まっていたり、階段を30分しか昇降していないのに数時間が経過していたり、逆に数ヶ月入院していたはずが数時間しか経っていなかったりと時間の流れが異常になっているのですが、そのおかしさは人物構図にだって言えることなわけです。

 「数ヶ月入院していたはずが数時間しか経っていなかった」麻子は、正にその「悪夢のような時間」から強い意思で脱出するわけですが、その髪は「数ヶ月入院していた」証にボブカットからロングに伸びてしまっている。悪夢の中で現実の(ボブカットの)自分が苦しんでいる姿を見、また真由子達がそんな麻子をずっと見守っていた事を知った麻子は、悪夢の中から来た自分は本当の自分じゃないのじゃないか……なんて不安に囚われてしまう。自ら現実はここだと叫んで帰ってきたわけだけど、「現実」がここだとして「自分」が誰なのかがあやふやになってしまう。先に語った、時間軸をずらしたような人物が大勢登場する本作のように。
 そんな麻子の不安を解消してあげるのがうしおの知らず語った「麻子はどう見ても麻子でしかない」という言葉であるのは、2人の繋がりの強さの表象であると同時に、人がどうやって「自分」というものを認識するのかを示してくれているように思います。自分だけがいて自分なのではない、他人が認識してこそ自分である――そういうことなのじゃないかな、と。本編の登場人物の色彩を崩すことなく、不思議な味わいを見せてくれた1編でした。


3.読み終えて
 さて、そんなわけで小説版「うしおととら」無事読了です。この2冊をいつ読むかは結構悩んだことでして。妥当なのは毎週書いている原作文庫版を読了した後、翌週から……だとは考えたのですが、時間のかかるであろう小説版は事前に読んでおかないと後回しにしてしまうんじゃないかという不安も強く、このタイミングにねじ込む形を取りました。そしてそれは実際のところ、「うしおととら」を楽しむ上でも正解だったのだろうなと思います。だって本作の最終決戦は、生者も死者も日本中を巻き込んだものになるわけなのですからね。その時に史帆がどうしていたのか、秌も冥界の門をくぐったりしたのかどうか、白煉はいったい誰のところに現れたのか、舞はどんな風に頑張っていたのか――そんな風に想像すると、これから原作で読む最終決戦は、アニメだけよりも、原作だけよりも、更にひと味増して楽しめるのじゃないかなと思うのです。

 原作同様、実に20年以上前の作品なわけですが、「うしおととら」に別のアプローチで命を吹き込んでくれた中山文十郎先生に、そしてガガガ文庫で復刊してくれた小学館に感謝したいと思います。ありがとうございました! もし原作の(もともと、あるいはアニメで新規になった)ファンの方でまだこれを読んでいないのなら、こんなにもったいないことはありません。ぜひぜひ、手にとってみてもらえたらと思います。

関連:
うしおととら 第1話「うしおとらとであうの縁」
うしおととら 第2話「石喰い」
うしおととら 第3話「絵に棲む鬼」
うしおととら 第4話「とら街へゆく」
うしおととら 第5話「符咒師 鏢」
うしおととら 第6話「あやかしの海」
うしおととら 第7話「伝承」
うしおととら 第8話「ヤツは空にいる」
うしおととら 第9話「風狂い」
うしおととら 第10話「童のいる家」
うしおととら 第11話「一撃の鏡」
うしおととら 第12話「遠野妖怪戦道行~其の壱~」
うしおととら 第13話「遠野妖怪戦道行~其の弐~」
うしおととら 第14話「婢妖追跡~伝承者」
うしおととら 第15話「追撃の交差~伝承者」
うしおととら 第16話「変貌」
うしおととら 第17話「カムイコタンへ」
うしおととら 第18話「復活~そしてついに」
うしおととら 第19話「時逆の妖」
うしおととら 第20話「妖、帰還す」
うしおととら 第21話「四人目のキリオ」
うしおととら 第22話「激召~獣の槍破壊のこと」
うしおととら 第23話「永劫の孤独」
うしおととら 第24話「愚か者は宴に集う」
うしおととら 第25話「H・A・M・M・R~ハマー機関~」
うしおととら 第26話(最終回)「TATARI BREAKER」
うしおととら 第27話「風が吹く」
うしおととら 第28話「もうこぼさない」
うしおととら 第29話「三日月の夜」
うしおととら 第30話「不帰の旅」
うしおととら 第31話「混沌の海へ」
うしおととら 第32話「母」
うしおととら 第33話「獣の槍破壊」
うしおととら 第34話「とら」
うしおととら 第35話「希望」
うしおととら 第36話「約束の夜へ」
うしおととら 第37話「最強の悪態」
うしおととら 第38話「最終局面」
うしおととら 第39話(最終回)「うしおととらの縁」

漫画感想「うしおととら」文庫版第1巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第2巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第3巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第4巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第5巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第6巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第7巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第8巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第9巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第10巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第11巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第12巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第13巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第14巻
漫画感想「うしおととら」文庫版第15巻

小説感想「うしおととら」1巻


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2 Comments

towa  

こんばんは!
うしとら感想毎度ひっそりと楽しみにさせていただいております。小説の感想も面白かったです!やっぱり自分はこういう事全然気付けないなあ・・・と思いながら拝読してます。私は細かいところしか見れないほうなのですが、闇鍋さんは視点が広くて羨ましいです!特に、三廻部秌&魅繰とうしお&とらの対比にはもうぜんぜん気付かなかった・・・言われてみれば本当にそうですね。秌&魅繰は関係性が内へ内へと向かって「二人の世界」になっているけど、うしとらは逆で、彼ら二人組を軸にしてどんどん他者との関係が広がってますよね。真逆にも見えるけど、「唯一無二の絆」という根っこはそっくりで、まさしく対であり、反転させた姿であり・・・ちょ、えーと、もう一度小説読み直してきますw

闇鍋さんの小説読むタイミング、ベストな位置だと思います!小説キャラについていろいろ想像できそうですね。原作漫画の感想も引き続きお待ちしてます~。

小説版、自分も割と最近読んだのですが、本当に良かったですよね。こんなに面白いとは思っていませんでした。
漫画と小説が同時進行だったので、原作である漫画への逆輸入も見られて面白いですね。麻子の運動会の話で、「珠算部のこの子可愛い子だな~」と思っていたら、小説を読んであらびっくりでした。かがり、日輪あたりのキャラ立ても小説に多少影響されていそうな気もしますね、時期的に。
最終決戦ではOVAのキャラも参戦してますし、藤田先生はメディアミックスにとても好意的な方ですよね。TVアニメの時もアニメの広報よりずっとアニメの宣伝されてましたw

2016/10/25 (Tue) 01:46 | EDIT | REPLY |   

闇鍋はにわ  

>towaさん

 こんばんは、小説版感想にもコメントありがとうございます。
 父親との関係はうしおと紫暮の対でもありますし、三廻部秌&魅繰は本当に魅力的な敵役ですね。関係性についての表現はtowaさんの書き方がとても適切だと思いますw

>珠算部のこの子
 うおおホントだ!原作を先に読んだのによく気付きましたね、教えてくれてありがとうございます。
 アニメの最終決戦に色々出したいというスタッフの声にも喜んだそうですし、原作とミックス先が相互に受け入れていく、と言うのは理想的な関係だと思います。小説版の出来の良さに実感しました。

 原作も残り少なくなってしまいましたが、次回から再びそちらの感想に戻りますので、もうちょっとお付き合いくださいませ。

2016/10/25 (Tue) 18:23 | EDIT | REPLY |   

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