美しい音色だったよ/響け!ユーフォニアム2 12話感想
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褒められたのは。
響け!ユーフォニアム2 第12話「さいごのコンクール」
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

いよいよ全国大会の日がやってきた。全てをぶつける北宇治の、演奏の結果は……たどり着いた場所、第12話。
このメンバーで演奏する最後の本番となる今回は「特別」と「特別でないもの」を冷徹に腑分けしながらも、そのどちらにも喜びを与える内容が胸に迫るものでした。
2クールに渡る物語で多くの視聴者にとって北宇治は「特別」になっているわけですが、それと匹敵、あるいは凌駕するものを他校が持っていないのか?と言えばそんなわけはない。みどりが興奮するように多くの校に名指導者がおり、多くの校にここにくるまでのドラマがある。駅ビルコンサートで春香は自分たちも全国出場だと語り、それはその場面では彼女たちが高みに昇ったという意味ではありましたが、裏返せば北宇治がその中で頭1つ抜けているわけではないということでもあるのです。
北宇治の演奏にどれだけの思いが込められているか僕たちは知っていますが、他の人達はそんなことは知りません。だから最後の本番は描かれないのです。府大会や関西大会で描かれなかった他校のように。自分の演奏をやりきった晴香やあすかが、他校の演奏を聞こうともしなかったように。他の人々にとっては北宇治は「特別」でもなんでもない。
思えば、全国という特別を目指す吹奏楽部を舞台としたこの物語は、同時に自分達が特別でないことを受け入れる物語でもありました。1期であれば受験と部活を両立させられない葵、オーディションに受からない夏紀や香織、一部のパートを演奏させてもらえない久美子。2期であれば相手にとってただの友達でしかない自分を受け入れるみぞれと優子、ただの高校生でしかないことを受け入れるあすか、ただの少女であることを受け入れる麗奈。だから最後に北宇治は「ただの出場校」になるのです。もちろん、全国大会に出場した事実はそれだけでものすごい出来事ではあるのですが、そこで金を取らないことで、北宇治はギリギリで僕らの手の届かない彼方に行かなかった――特別にならなかった、と言えるでしょう。
ですが、特別にならないことがけして駄目というわけではありません。それは各人の成長を伴ってきたこれまでの物語でも、今回の話でも描かれています。
希美だけが特別だったみぞれは、自分から久美子に話しかけ、大事な仲間との拳の重ね合わせをする。それは希美という特別はそのまま、彼女が広がっていくということ。
演奏を終えた晴香とあすかは、他校の演奏を聞くことなく香織と3人で喫茶店へ行く。それは彼女達が部長や副部長といった「特別な役割」から解き放たれ3人で並べるということ。
部の中でも孤高だった麗奈は、滝先生への声掛けや改めての告白(によるひとまずの「恋愛コンクール銅賞」)を経て、優子に励まされる。それは部員にとって麗奈がトランペット一筋の特別な存在ではなく、1人の少女になるということ。
そのどれもが、特別ではないから得られた幸せです。

そして「全国大会金賞」という特別にはなれなくとも、彼女達の思いのいくつかは別の特別に届きます。吹奏楽部らしく、いくつもの描写を合奏して。
秀一から贈られた花のヘアピンは久美子の髪に飾られるのではなく、供えるように楽譜の前に置かれます。みどりを経由して選ばれた花はもちろんイタリアンホワイトであり、その花言葉は「あなたを想い続けます」。久美子が誰を、遠くに行ってしまった誰を想い続けるかと言えば、家を出ていった麻美子に他なりません。姉妹が一緒に吹くことができなかったようにこの場で髪飾りが飾られることはないけれど、久美子は麻美子を想い続ける。秀一のフォローは麻美子にも久美子にも届く。
あすかは自分が演奏することを父である進藤正和に連絡してはいなかったけれど、娘が演奏したのだと気付き言葉を伝えてもらえる。それ自体が1つの特別な出来事ですが、面白いのはこれが伝言でありまた久美子も聞いているということです。滝先生を経由する以上それは他人の言葉であり、また彼はその言葉があすかと久美子のどちらに向けたものなのかを知りません。この伝言は「誰が誰に伝えた言葉か」という先端と終端がブレている。他の形に解釈できる。劇中の誰も、久美子自身ですらそう感じてはいないでしょうが、「よくここまで続けてきたね。美しい音色だったよ」という言葉は、麻美子が久美子の演奏を聞いて抱いたものでもあるのじゃないかと、僕はそう思うのです。

「全国に行けば演奏を聞いてもらえる」。それはあすかの思い描いた夢ですが、期せずして久美子にも当てはまるものでした。もし北宇治高校が全国に出場することができなかったら、久美子は麻美子に演奏を聞いてもらうことはできなかったからです。「わたしも寂しいよ」という電車の中に消えていくだけだった久美子の素直な言葉は 、全国大会に出場できていたからこそ麻美子に届くチャンスを得ることができた。そして、全国出場が決まった後であすかが自分の演奏を父に聞いてもらえるかどうかの最後の一歩を自分で踏み出したように、久美子も駆け出すのです。たとえ3年生引退の集合の話のただ中であっても、それは今後望んでも得られない機会であるから。それは姉への自分の心の演奏を聞いてもらえる最後の機会――「さいごのコンクール」なのだから。そして、彼女はその音色をようやく届けることができた。
おやすみ前の大富豪のようにずっと平民だった、ずっと特別ではなかった久美子が掴んだ「特別」。それは北宇治の演奏と同じように、金や銅とは関係なく、まぶしいものでした。
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