じゃあ言わない/響け!ユーフォニアム2 13話感想
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声にしなくとも伝わる、その音の温かさ。
響け!ユーフォニアム2 第13話(最終回)「はるさきエピローグ」
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

3年生が引退して数週間。北宇治高校吹奏楽部は新たなスタートを切った。そんな中、久美子はどこかモヤモヤとした思いを抱えていて……響いてゆく、最終回。
吹奏楽部の目標であったコンクールを終え、去りゆく者を見送る今回は、「伝え方の多様性」を肯定するような温かいエピローグでした。多様な伝え方――物語は口にされる台詞だけで表現するものではないのは当たり前ですが、今回は「口にしない」ということがいつも以上に前面に出ていたように思います。副部長に指名されたことを優子に「言ってない」夏紀に始まり、葉月とみどりは久美子が秀一から何をもらったかは「言わない」。久美子と秀一の最初の話題はプレゼントを秀一が「言いふらしたかどうか」だし(そしてそうでないことに久美子は安心する)、あすかと葵は2人をからかいつつもそれがどういう関係なのか直接は「言わない」。けれど、それは相手に伝わっていないということではない。伝え方は1つではない。
麻美子が家を出たことで、久美子は彼女とは声が届かない、口にしても届かないほど物理的には離れてしまったわけだけど、手紙という方法で思いを伝えあうことができる。僕達視聴者にしても、心残りは金賞を取れなかったことなのかと推測する麗奈に向ける久美子の笑顔や、葵にあすかと何かあったわけではないと返す時の視線からは言外の意味を多分に感じ取ることができます。心残りとして1番に浮かぶのが金賞なあたり、麗奈ってマジ麗奈。

台詞ではない共通言語の最たるはやはり本作のメイン・アイテムである楽器であり、3年生と1・2年生は演奏によって互いの思いを交換し合います。それは他の部活とは比較し得ないほど多くの人間が前面に出て関わり合う本作にふさわしいものであり、多くの関係性はここで完結するわけですが、合奏という掌はあまりに大きいゆえに全てを拾い切ることはできません。けれどメイン・アイテムである以上それが無力ということではなく、できないものに対しては演奏は地ならしを務めてくれる。この年の吹奏楽部が全力で取り組んだ課題曲「三日月の舞」が皆と視聴者にこれまでを思い出させてくれるからこそ、久美子は吹奏楽部共通の思い出より昔、初めてあすかを見た春にまで心をさかのぼらせることができるのですから。それは久美子だけの思い出であり、彼女があすかと学校での最後を共有するための地ならしです。そして地ならしは合奏だけに留まらない。
最後に共有する時間、卒業式の前に久美子は引退後にあすかと何もないことにモヤモヤしていたわけですが、どうしてそんなに何も無かったのか。僕はその答えは、久美子との最後のやりとりにあるように感じました。


久美子「私、先輩のこと苦手でした。先輩だし同じパートだから思わないようにしてましたけど、なんか難しい人だなってずっと思ってました。もしかしたら嫌いだったかもしれません」

あすか「あははっ! それが言いたかったこと?」
久美子「おかしいですか」


あすか「そりゃあねえ。だって、そんなこと分かってたし」

久美子「分かってないです!」
「分かってた」。たぶん、そういうことなのです。あすかはずっと 、自分が久美子に好かれていないのだと認識していた。自分の過程のことを打ち明け、自分のユーフォを聞きたいと泣いてくれる久美子を「ちゃんと愛して」いるけれど、だから距離を取った。こっそり帰ろうとした。伝え方は1つではないと先に述べましたが、伝わり方だって1つではない。伝えないつもりだった認識は、おそらく怖くて確認できなかった認識は、久美子に伝わってしまっていたのです。
折々の失言に代表されるように久美子は「口にして伝える」人間である一方、本心をまるで見せないあすかは「口にして伝えない」人間であり、だから2人の思いの伝え方は等しくなることがありません。久美子は泣きじゃくって自分の好意を伝える。あすかはノートに託して伝える。「さよなら」と言わないで「またね」で2人のありようを交錯させ、思いを伝える最後の媒介に曲名――声ではなく音になるものを選んだことは、合奏とは違った形で本作のメイン・アイテムが活かされた結末であったと思います。なぜこの久美子とあすかが最後を飾るのか。それをとても納得させてくれる終わりでした。
さて、足掛け2クールに渡って描かれた北宇治高校吹奏楽部の1年ですが、振り返ってみるととても「手強い」作品でした。
昨年の1期はオーディションをめぐる出来事などで自分がキャラの善性を信じ過ぎだという問題を突きつけられた、面白いけど同時に悔しさを感じた作品でもあり、今度は繰り返したくないなと思いながら臨んだのですが……序盤で柄にもなくやった展開予想(2話)(4話)がもう見事に綺麗事で。希美が部活への復帰を拒まれた理由も、あすかがそうした理由も、あすかがみぞれに対して向けた見方も僕が思うよりはるかに純粋ではなく、ゆえに真に迫るものでした。また出しゃばった展開予想に限らずとも、あすかが香織に向ける目線や、あすかが特別でないことに葵が向けた「冷たい氷を毛布でくるんだような不思議な笑み」といったものは僕がどうにも上手く踏み込めなかったものでもあります。これらは僕の性向的な問題が大きいんだろうなとも思うのですが、それを能力で補えなかったのはとても悔しい。
一方で昨年よりもぐっと作品に近づけた手応えを感じたのも確かであり、この3ヶ月、木曜は毎週毎週が感想の書き甲斐のある日々でした。手に負えなかった事実も含めて、この作品をリアルタイムで見られたことに感謝したいと思います。原作を生み出してくれた武田綾乃先生に、明暗あふれる内容を見事に映像化してくれた京都アニメーションに、本作を僕に見せてくれた全ての皆様に感謝を。ありがとうございました。

それにしても、うめき声1つだけの優子がスカーフを手に持っているのは本筋とは別の余韻があって優しい。寂しくてたまらないだろうとは思うけれど、良かったねって言ってあげたい。
皆がいて久美子が訪れる時は道路に足跡は残らない。あすかと話して少しの時間が経ち、彼女が去る時は足跡が残る。雪雲さん空気読み過ぎィ!#anime_eupho pic.twitter.com/1AX0CJd2hy
— 闇鍋はにわ (@livewire891) 2016年12月29日
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