セイレン総評―メタ・ギャルゲー上の少年少女たち―
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最終回感想で稿を改めて……と書いた、「本作がどういう作品と言えるのか」に対する私見です。基本的に僕は「その回の感想」を書く人間なのでこういうのはあまりやらないのですが、本作については書きたいことが山盛りになったため単独で記事にすることにしました。
<セイレンをアマガミと比較する意味>
僕はセイレンを満足して視聴した人間ですが、「アマガミSS(および+ plus)」とどちらが見ていて盛り上がるか?と言えば後者を挙げます。なにせアマガミSSは膝裏キスだのへそキスだの毎週目を引く紳士的プレイがあり、「これでなんで君ら付き合ってないの?」というレベルのイチャイチャがあった。一方のセイレンはそうしたシーン、ギャルゲーで言えば一枚絵で表現されるところを想像させる場面はけして多くありません。両者を比較した人が「アマガミSSには及ばないな」と感じたとして、それは全く自然な反応であるように思います。
ですが、どうしてギャルゲーのアニメ化であるアマガミSSとオリジナルアニメのセイレンを比較するのか。それを問えばおそらく、ほとんどの人はこう答えるのではないでしょうか。「だって、セイレンはギャルゲーのアニメ化作品みたいだから」と。
<メタ・ギャルゲーとしてのセイレン>
実際、セイレンの外観は恋愛AVG的な性質を色濃く備えています。それもけして雰囲気だけの話ではありません。
1.アマガミ制作スタッフの中核である高山箕犀氏の原作を強く意識させるディザーPV
2.「キミキス」「アマガミ」と連なる片仮名4文字のタイトル
3.アマガミ同様の年齢分布の6人のヒロイン
4.そのアニメ化作品であるアマガミSS同様のオムニバス形式
5.世界観も「キミキス」「アマガミ」と同一
6.セイレンの舞台はアマガミと同じ輝日東高校
7.スターシステムで登場する旧作のキャラ
8.「キミキス」「アマガミ」 同様に主人公に姉妹がいる(しかもそれら同様に、姉妹にヒロインからの評判を尋ねる場面がある)
9.ゲーム攻略本のチャートのような公式サイトのストーリー時系列表
これだけあれば嫌でも「ギャルゲーのアニメ化」の印象持つわ! というか、スタッフが意図的にそう感じさせている可能性を疑ってみても良いのではないでしょうか。そしてこれらがどうして「ギャルゲーのアニメ化」という印象を抱かせるのか考えた場合、影響力の特に強い要素が2つあります。「3.アマガミ同様の年齢分布の6人のヒロイン 」と「6.セイレンの舞台はアマガミと同じ輝日東高校 」です。
<キャラではなくヒロインとして規定される少女たち>
「3.アマガミ同様の年齢分布の6人のヒロイン 」について言えば、そもそも「複数のヒロインとそれぞれ結ばれる未来がある」というのはそれ自体がギャルゲーの文法です。他メディアでも三角関係などで「もう1人のヒロイン」がいることは珍しくありませんが、その場合でも未来は1つしかない。
加えて、本アニメで実際に正一と恋仲になるのは半分の3人しかいません。水羽、真詩、るいせは現状では脇役に過ぎないにも関わらず、「いずれ」という含みによってヒロインの肩書を与えられている。それはアニメ以外にこのコンテンツの本堂がある――すなわちもっとも文法に則した「ゲーム版がある」ことを連想させますし、アニメで恋模様を見せてくれた耀、透、今日子に対しても「攻略対象ヒロイン」という目線を視聴者に持たせることにもなります。「攻略対象ヒロイン」なんて目線、ギャルゲー以外では使いませんよね。
<ギャルゲー・ユニフォームとしての輝日東高校制服>
「6.セイレンの舞台はアマガミと同じ輝日東高校」については、本作の情報を初めて知った時に「何故だろう?」と首を傾げた部分でした。世界観の共通化はキミキス→アマガミでも見られたことですが、舞台となる高校は2作の間では異なっていたからです。キミキスは輝日「南」高校、アマガミは輝日「東」高校。にも関わらず、セイレンの舞台はアマガミと変わっていません。輝日西でも輝日北でもなく、輝日東のまま――耀達がその制服に袖を通している事は、セイレンのヒロイン達が「ギャルゲーの制服を着ている」のだと言い替えることもできます。デザインとしては現実にもありそうな輝日東高校の制服ですが、そこには恐ろしく強烈なギャルゲー・ユニフォームとしての臭気が含まれているのです。
<ギャルゲーらしからぬ展開・結末を迎えるヒロイン達>
かくして多くの視聴者が「これは原作はないけどギャルゲーのアニメ化なんだ」という印象を抱くわけですが、実際のところヒロイン達はギャルゲーの文法に縛られているわけではありません。「これでなんで君ら付き合ってないの?」というレベルのイチャイチャなんてもちろん無くてスキンシップは非直接的だし、正一の告白はいつもすんなりとは行かない。ファーストヒロインである耀に至っては、付き合わないという結末すら迎えたりする(もちろん、そういう結末が他のギャルゲーにないわけではないが)。描写の中心になっているのは恋愛の成就以上に正一とヒロインが自分の進路を見つけたり成長する青春ドラマですが、それは決しておかしいことではありません。だってこのアニメが「ギャルゲーのアニメ化」だというのは錯覚に過ぎないのですから。
*ついでに言えばキミキスやアマガミは「約1ヶ月後の学園祭でのデートを目指す」と言った感じでゲーム期間がきっちり決まっているため、仮に両作で攻略チャートを作った場合はセイレンのようにヒロインごとに告白までの期間がバラバラになりません。そういう意味では、上述の攻略チャートはギャルゲー的ではあってもキミキス・アマガミ的ではない。
<終わりに>
キミキスやアマガミは浮気イベントやスキBADにソエンなどで「主人公と結ばれることで幸せになる」以外の人間味をヒロインに付加してきました。ただ、それはあくまでギャルゲーという枠からは出ることがありません。セイレンでなされたのは、アニメという別メディアでギャルゲーを再現することでその枠組を取り払う、言わば逆転の発想だったのではないかなと思います。
耀に置いて行かれた正一は透には追いすがり、今日子とは一緒に進んでゆく。オムニバスとは言いながらもヒロインが交代するごとに正一は進歩していて、その成長はこの12話できちんと一段落がついています(今日子が自分だけはエッチな目で見てくれなかったと語る12話、ヒロイン交代を踏まえるとすごくメタい)。そういう意味では水羽、真詩、るいせで続きが作られなくとも本コンテンツは尻切れトンボではないのでしょう。けれど、できれば彼女たちと共に正一の更なる成長が見られればいいなと思います。なにはともあれ登場人物達の頓狂な行動から本当に様々なものを見出すことができ、僕としてはとても面白い作品でした。
関連:
セイレン 感想リスト
セイレン 第1話「ケツダン」
セイレン 第2話「ヤマオク」
セイレン 第3話「オトコユ」
セイレン 第4話「ホシゾラ」
セイレン 第5話「コウカン」
セイレン 第6話「タイセン」
セイレン 第7話「ブラコン」
セイレン 第8話「モフモフ」
セイレン 第9話「カテイブ」
セイレン 第10話「オサガリ」
セイレン 第11話「カクセイ」
セイレン 第12話(最終回)「ハツコイ」

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