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呪いにも救いにもなる「これまで」――「武装錬金」文庫版3巻感想

武装錬金 3 (集英社文庫 わ 14-19)

 和月伸宏の「武装錬金」文庫版3巻を読了。今回は早坂姉弟編のラストからLXEとの決着、そしてブラボーとのバトルまで。新しい世界を開こうとしてみても、これまで浸かっていた世界からそう抜け出せるものではない――早坂姉弟に対してパピヨンとムーン・フェイスが言ったことですが、それはけしてこの場面だけに留まるものではないように思います。

 銀成高校襲撃という事態に対してカズキ達は正体がバレないよう顔を隠して戦い、それが生徒達の疑心を生んでホムンクルスと一緒くたに抵抗を受けるという事態を引き起こしますが――それを救ってくれるのは、濃霧の中でも1発で顔が分かるくらい気心の知れた友人達。つまりカズキが「これまで」いた世界の住人達です。また、ヴィクター化しみんなのことよりも敵を倒すことを優先しそうになってしまったカズキが元に戻れたのも、斗貴子さんという「これまで」傍らにいてくれた存在あればこそ。新米錬金の戦士に、すなわち新しい世界への扉を開いた中村剛太にとっても、訓練所で世話になった=「これまで」一緒にいたことのある斗貴子は大きな存在で、戦士にとって絶対であるはずの任務よりも彼女を優先してしまう。

 しかしパピヨンとムーン・フェイスの言い方が否定的であったように、「これまで」はけしてプラスにだけ働くわけではありません。千里がかつて人型ホムンクルスに襲われた経験は「人の姿をしていても化物」という誤解のもとになるし、戦団がカズキの治療や経過観察を選ばなかったのはヴィクターという過去の事例があったからこそ。そして戦団がブラボーに対して下した命令は「抹殺」ではなく「再殺」です。「一度ホムンクルスに殺され 戦士・斗貴子の手によって蘇った彼の命は在ってはならない もう一度殺して元に戻すべき」――そう、カズキには1度死んだという「これまで」があり、だからこそそこに戻すことに一定の正当性が認められてしまうのです。

 カズキを再殺しようとするキャプテン・ブラボーの意思が本物だとカズキが理解するのは、「善でも悪でも 最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない」というかつてブラボーが口にした言葉があればこそだし、再殺にカズキが抗うのもその言葉があればこそ。短い間でも、カズキとブラボーが「これまで」いた世界で得たものは2人の意思を揺るぎなくしているし、そして何よりカズキが人間に戻ろうとすることは、日常も戦いもひっくるめてカズキが「これまで」いた世界に強い愛着を持っているからに他なりません。良い形でも悪い形でも、本作における「これまで」は登場人物から切っても切り離せないものなのでしょう。


 それでも、世界と人々は少しずつ変わっていきます。早坂姉弟が他の人と繋がりを持つようになったように。パピヨンがカズキをライバル視しながらも敵対関係とは言えなくなっていくように。斗貴子さんが少しスパルタンでなくなったように。カズキというもう1人のヴィクターが生まれたように。彼の突撃槍の武装錬金が生まれ変わったように。さてさて、問われていく彼らの形は。

 アフターアフターは岡倉達やまひろ達まで一時的に武装錬金を発動させて博覧会状態に……彼らを戦いの世界に出さないことは作者にとって重要な一線だったそうですが、こんな風にギャグでやるならまあ、アリですよねw

関連:
漫画感想(「たまのこしかけ」3巻、「エンバーミング」7巻)
漫画感想(「エンバーミング」8巻)
漫画感想(「エンバーミング」9巻)
漫画感想(「エンバーミング」10巻)

漫画感想「武装錬金」文庫版1巻
漫画感想「武装錬金」文庫版2巻

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2 Comments

tara  

学校を守る為に闘うカズキと斗貴子さんが生徒達から一旦は拒絶され、受け入れられ…という過程もまた、ヒーローものの王道に一本筋を通すような読み応えがありますよね。
ここのくだりの盛り上がりも本当に素晴らしくて、決着→連載終了を今度こそ覚悟した…のも今は昔(天丼)
アニメOPで、校舎から声援を送るまっぴー達のカットをサビの一番盛り上がるところに合わせてくれたのは絶妙でした♪

3バカの「R.O.D」は思いっ切り遊んでましたね~w
あのまま闘ったりしたら流石にやり過ぎですけど、「武器であること」、「闘争本能によって作動」という武装錬金の基本設定をかろうじて守ってるところが和月先生らしいなぁと(^^)

2017/11/06 (Mon) 01:11 | EDIT | REPLY |   

闇鍋はにわ  

>taraさん

>ここのくだりの盛り上がりも本当に素晴らしくて、決着→連載終了を今度こそ覚悟した…のも今は昔(天丼)
>アニメOPで、校舎から声援を送るまっぴー達のカットをサビの一番盛り上がるところに合わせてくれたのは絶妙でした♪
 岡倉達が顔が見えなくても1発で分かる……というのが良い伏線でしたね。あそこをOPに持ってきたのは素敵なセレクトだったと思います。

>3バカの「R.O.D」は思いっ切り遊んでましたね~w
>あのまま闘ったりしたら流石にやり過ぎですけど、「武器であること」、「闘争本能によって作動」という武装錬金の基本設定をかろうじて守ってるところが和月先生らしいなぁと(^^)
 そういえばR.O.Dのスタッフがモデルでしたっけw 工具や変身アイテムで武器ではない、というあたり、線引がきっちりしてますよね。

2017/11/08 (Wed) 20:55 | EDIT | REPLY |   

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