「裏返し(リバース)」のその先へ――「武装錬金」文庫版4巻感想

本来はカズキと同じホムンクルスと戦うための錬金の戦士が敵となっているこの状況が既に「裏返し」ですが、彼らはその多くがまるで彼らこそがホムンクルスであるかのような性質を持っているからです。首を切られても死なない火渡の不死身、動物型ホムンクルスのような武装錬金を使い遊び感覚で戦う犬飼、人を食うホムンクルスを逆に食べて人間以上の再生力を持つ戦部などなど。装いなども含め人間なのに人間離れした連中ばっかり……
「裏返し」なのはカズキと斗貴子さんも同様で、カズキが人間でなくなるタイムリミットが設けられているというこの状況って、かつて斗貴子さんがホムンクルスの幼体に寄生された時と2人の立場が逆なのですね。だからかつてと同様にカズキは間に合わなければ自決しようと考えているし、1度は彼女を連れず1人で行こうとした。そしてかつてと同様に、今度は斗貴子さんがそれを許しはしない。普通ならどう見ても死んでいると諭されても「言われずともそんなコトわかってる!けど私はここでカズキを死なせたくない それだけだ!」と人工呼吸を試みたりと、カズキのこととなると冷静な理屈をすっ飛ばして剛太を驚かせる彼女の姿は、蝶野との戦いで度々自身を驚かせたカズキの姿の裏返しなのです。
それはとても美しい関係の反射ですが、同時に裏返しでは中のものが外に出ることはありません。カズキと斗貴子さんの一心同体の誓いは、下手をすれば早坂師弟の「死が2人を分かつまで」の裏返しになりかねない――だからカズキが常に提示してきたような「第三の選択肢」がカズキ達にも必要になる。「三人目」が必要になる。それが逃避行に同行する剛太であり、第三勢力として実質カズキに協力するパピヨンです。
特に新たに登場する剛太の役割は重要で、関係が裏返ってしまった以上カズキはかつてのように「怖いけど戦う」というキャラには戻れません(彼がそういうキャラに戻ることを許されるのは、自分を破ったブラボー相手だけ)。一方で剛太は戦士としても仲間としても新入りで、故に他のキャラから大きく影響を受けるし悩んでいきます。カズキを殺すべきか?ですとか、敵は全て殺そうとする自分達と、敵も守ろうとするカズキのどっちが化物か?ですとか。斗貴子さんの恋敵であることも含めて彼が悩むのはいつもカズキ絡みで、そんな彼がいるからこそカズキは成長してなお主人公でいられる。彼は存在自体がカズキの主人公性を示すための「第三の選択肢」なのです。
裏返しではなく第三の選択肢でこそ先が開けるのはバトルも同様。剛太は「正面からの早撃ち」or「逃走」ではなく「正面からの奇襲」で火渡を出し抜き、斗貴子さんはくらえばくらうほど身長の縮む円山のバブルケイジを「くらって消滅」or「くらわず反撃」ではなく「くらって更に小さくなって反撃」で臓物をぶち撒ける(物理)。だからカズキの「穂先ではなく逆側、石突を伸ばして突進」という「裏返し」ではブラボーに打ち勝つことができない。次巻提示される「第三の選択肢」は――って、まあ一度読んだ身ではあるので思い出しちゃいましたが。
アフターアフターはアフターアフターの方で「敵の武装錬金をくらって若返りor老化」ではなく「くらっても変化しないパピヨン」が事態を打開するというこれまた第三の選択肢。敵の正体が信奉者としては「3人目」の震洋というのはある種の奇縁ですね。いよいよ、次巻で決着です。
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