FC2ブログ
Welcome to my blog

Wisp-Blogは移転しました

ARTICLE PAGE

ヴィクトリアと津村斗貴子――「武装錬金」2人のヴィクターと2人のヒロイン

武装錬金 1 (集英社文庫 わ 14-17)
 *文庫版5巻「武装錬金アフターアフター」のネタバレを含みます。また文庫版5巻の感想と重複する箇所もありますのでご注意ください。

171112_11.jpg
 10年の時を経て刊行された文庫本版「武装錬金」。それはかつて見た物語を再読するだけでも多くの新発見を与えてくれたのですが、とりわけ強いインパクトを受けたのは描き下ろし「アフターアフター」のラストでした。元・信奉者である鈴木震洋の襲撃を退けるカズキ達の騒動をあざ笑うように見ていたヴィクトリアに対して、ヴィクターが「ヴィクトリアを、いつも彼女が見ている地球に留学させる」と言い出し、ヴィクトリアがまるで外見相応の少女に戻ったように慌てる……というものです。このやりとり自体とても微笑ましいんですが、同時になんだかヴィクターの突拍子の無さがカズキに似て見えたのですよね。ヴィクターおよびヴィクターⅢ、そして「同じが如き境遇の下――絶望にしがみついた男と…希望を手放さなかった男」というのがヴィクターとカズキですから似ているのは当然なのですが、じゃあそんな彼と一緒にいるヴィクトリアってなんだろう?と。そんなことをふと思い、今回の記事を書き連ねたのでした。


<前段:武装錬金は「三人組」による物語である>
 連載を追いかけてではなく文庫版でまとめて読んで初めて気付いたのですが、本作では「三人組」がいつも大きな役割を持っています。カズキの戦いは「カズキと斗貴子さんと蝶野攻爵」という三人から始まり、パピヨンが一時退場した後は戦士長・キャプテンブラボーが現れカズキを新たな3人目にスカウトする。早坂姉弟編は2対2のようで実際はカズキが秋水を破り桜花の心を動かし、それが斗貴子さんを説得する。再殺部隊編ではブラボーが敵対する一方、剛太が新たに仲間に加わる。そして月まで飛んだカズキの帰還は、最初の「カズキと斗貴子さんと蝶野攻爵(パピヨン)」が事態を打開する原動力となる。物語を動かしてきたのはいつも「三人組」でした。
 そして、三人組は全てがカズキを加えたものではありません。日常を彩るカズキと斗貴子さんの友人は岡倉達三バカにまひろ達仲良し女子三人組ですし、過去にはキャプテンブラボー(防人衛)は火渡、千歳と三人でチームを組んでいた。そして過去に目を向けるなら、もう1つ三人組が存在します――大戦士ヴィクターとその妻アレキサンドリア、そして愛娘であるヴィクトリア。カズキの物語の遠い始まりとなった黒い核鉄に関わっていたのもまた、三人組だったのでした。


<1.日常から非日常へ追い立てられたものとしての、ヴィクトリアと斗貴子の共通点>
 そうして三人組で重ねてみると、ヴィクターとカズキはもちろんのこと、ヴィクトリアと斗貴子さんにも意外なほど共通点を見出すことができます。
・2人ともニュートンアップル女学院の制服を着ている
・どちらも錬金術によって家族を失った
・日常を生きる存在だったはずが、ヴィクトリアはホムンクルスにさせられ、斗貴子さんは錬金の戦士として日常から外れた存在になってしまった
・ゆえにヴィクトリアは錬金術の全てを嫌い、斗貴子さんはホムンクルスという錬金術の産物の一方を強く憎むようになった

 もっとも、ヴィクターにとってヴィクトリアは愛娘、カズキにとって斗貴子さんは愛する少女である以上、2つの三人組は単純に反転した関係ではありません。ではカズキ達にとってアレキサンドリアにもっとも近い3人目になれる存在が誰かと言えば――それはやはり「錬金術に対する深い知識」「人間を捨てての生」「もう1人とは違った形で対象への愛着を持つ」パピヨンこそが相応しいように思います。
 また斗貴子さんは「武装錬金ファイナル」においてカズキを失いますが、ヴィクトリアは細胞の限界によって母アレキサンドリアを失い、更には父ヴィクターもカズキによって月へ連れ去られます。母の死に際してのヴィクトリアの「私は独りでも生きていける」という言葉は、斗貴子さんがカズキの代わりにパピヨンとの決着を着けようとする姿と変形的に対応するものなのでしょう。だって斗貴子さんがカズキの代わりをやってしまったらそれはカズキの死を受け入れる(諦める)ことになり、また三人組で残されるのは斗貴子さんだけになってしまうのですから。


<2.2人を救う「3人目」>
 けれど物語は、ヴィクトリアも斗貴子さんも独りにはしませんでした。彼女達には「3人目」がいたからです。斗貴子さんにとっての3人目であるパピヨンはカズキを人間として連れ戻すことを諦めていなかったし、アレキサンドリアもまた「もしパパに会えたら」と伝言を交わし合うことでヴィクトリアがヴィクターと再会する可能性を諦めていなかった。パピヨンの問いかけは羅刹と化していた斗貴子さんに少女としての心を呼び覚まし、アレキサンドリアの伝言はヴィクターからの問いかけを通してヴィクトリアに「父と再会した娘」としての感情を呼び戻す。出番と描写こそ限られているものの、ヴィクトリアの嗚咽は斗貴子さんの涙と同じように大切なものなのです。


<3.日常と非日常、別れた世界と繋がる架け橋>
 戦いが終わった後、ヴィクターは自分も娘と同じホムンクルスにしてもらい、それらを連れて月へと渡ります。日常と非日常が相容れないように、人とそれを食うホムンクルスもまた相容れません。けれどそこには希望がある。錬金戦団の研究によっていつかホムンクルスも人間に――日常に戻れるのではないかという、遠いけど叶える価値のある希望が。事実、非日常という点ではヴィクトリアに等しかった斗貴子さんは、カズキによって日常へと帰ることに成功したのですから。だからヴィクトリアも夢を見たっていい。ひねくれたフリをしなくたっていい。その第一歩こそは、「アフターアフター」でヴィクターの決めたヴィクトリアの地球への留学なのです。



 そういうわけで、ヴィクトリアはパピヨンとはまた違った形で武装錬金の「もう1人のヒロイン」であるというのが、書き連ねてみての結論でした。「武装錬金アフターアフター」がなければ、僕は彼女の事をこうアレコレと考えることはなかったでしょう。文庫版発売にあたってこの話を描いてくれた和月伸宏先生に、もう一度感謝を。ありがとうございました。


関連:
漫画感想(「たまのこしかけ」3巻、「エンバーミング」7巻)
漫画感想(「エンバーミング」8巻)
漫画感想(「エンバーミング」9巻)
漫画感想(「エンバーミング」10巻)

漫画感想「武装錬金」文庫版1巻
漫画感想「武装錬金」文庫版2巻
呪いにも救いにもなる「これまで」――「武装錬金」文庫版3巻感想
「裏返し(リバース)」のその先へ――「武装錬金」文庫版4巻感想
お前達が"俺達みんなの味方"なら――「武装錬金」文庫版5巻感想

にほんブログ村 アニメブログ アニメ感想へ
にほんブログ村
このエントリーをはてなブックマークに追加

2 Comments

tara  

ヴィクトリアはお気に入りのキャラですが(アニメ版のCV釘宮さんも最高にハマリ役で♪)、斗貴子さんと対になる関係という見方はこれまでしたことがありませんでした。

前後の展開が衝撃的過ぎて、アレクさんの遺言のくだりがあまり強く印象に残らなかったせいなのか…
読み返すと確かに。それぞれにとっての「3人目」がどちらも研究者として役割を果たすのも対比が効いてますね。気づかなかった…
「アフターアフター」には和月先生恒例のライナーノートがありませんが、きっとラストの一幕はヴィクトリアについて描き切れなかったところまで描いた結果なのでしょうね。

ヴィクトリア加入後の銀成高校の日常、蝶見たいんですが…(^^)
肩の力を抜いたラブコメモドキでウェルカムなので、新たな番外編でいつか是非!

2017/11/19 (Sun) 17:10 | EDIT | REPLY |   

闇鍋はにわ  

>taraさん

>ヴィクトリアはお気に入りのキャラですが(アニメ版のCV釘宮さんも最高にハマリ役で♪)、斗貴子さんと対になる関係という見方はこれまでしたことがありませんでした。
 ありがとうございます。釘宮さんは適役でしたねー。猫をかぶった初登場時のかわいさが妙に印象に残ったキャラでしたが、こうしてまとめて見て彼女への印象が自分の中ですっきりまとまったように思います。

>「アフターアフター」には和月先生恒例のライナーノートがありませんが、きっとラストの一幕はヴィクトリアについて描き切れなかったところまで描いた結果なのでしょうね。
 彼女が潜伏するのが学校だった事はどちらの発案だったのでしょうね。ヴィクトリアの描写量と印象は多分に打ち切りの影響が大きいと思うのですが、その分彼女は想像するだけ面白くなるキャラなのではないでしょうか。

>ヴィクトリア加入後の銀成高校の日常、蝶見たいんですが…(^^)
>肩の力を抜いたラブコメモドキでウェルカムなので、新たな番外編でいつか是非!
 そうですね、蝶・見たいw 剛太と千里の関係なんかも気になりますし。「/Z」がほろ苦い結末だった事もあり、今回のアフターアフターはとても嬉しいものでした。
 

2017/11/20 (Mon) 22:48 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment