時が前に進まずとも――「このはな綺譚」12話感想
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思いは前にしか進まない。
このはな綺譚 第12話(最終回)「大晦日の奇蹟」
©天乃咲哉・幻冬舎コミックス/このはな綺譚製作委員会



大晦日、二年参りに出かけた柚たち。しかし柚は気がつけば見知らぬ道の中にいて……? いよいよ最終回となった12話は、時間をさかのぼるお話で「出会う前には戻れない」という不可逆性が語られたのが面白い回だったなと思います。
柚が過去に迷い込んだからこそ此花亭が生まれた一方、此花亭があればこそ柚は現在に戻れた――それはつまりタイムパラドックスですが、柚が戻った先が何か変わった様子はありません。つまり最初から全ては織り込まれている。椿が柚と「出会わなかった」過去は存在しないし、柚が皐たちと「出会わなかった」現在も存在しない。本作の世界は時間を越えてなお「出会う前には戻れない」のであり、柚が此花亭に戻りたいと思う理由は何よりこの30分を以てこそ証明されています。
たとえ時間が巻き戻ろうとも、刻まれた思いが巻き戻ることはない。あたたかな家ができるようにという柚の椿への願いは彼女が生まれるよりも前の時間で叶えられ、また道に迷った時に帰れるようにという椿の柚への願いはそれが実際に書かれたよりも前の時間で叶えられます。そしてそれを叶えるのはどちらも神様ではなく、眷属や仲居というそれに仕える者の思い。重ねてみれば、柚を新入りとする此花亭も椿を新入りとする稲荷神社もさほど違いはありません。眷属は文字通り神様に仕え、仲居は「お客様は神様です」の理念のもとに務める。神社や此花亭で何かを叶えあるいは果たそうとするのは他の誰にも頼れなかった人達であり、眷属や仲居はそれを放っておけない。同業者という椿の見立ては、当たらずともそう遠くはないのでしょう。かつて自分の自尊心のために「私が稲荷神社のお使いぎつねなら」と口にした柚が、今回は倒れた他人を放っておけなかった結果お使いぎつね(眷属)に誘われる今回は、ある意味で彼女が此花亭で歓待されているようでもありました。けれど柚はそれを選びません。客にとって此花亭があくまで仮の宿であるように、稲荷神社もまた柚にとっては仮の宿に過ぎない。今の彼女にとっての帰る場所は此花亭であり、そしてそれは此花亭が女将にとっての「あたたかな家」である逆側からの証拠となるのです。
この世とあの世の境を舞台にした物語を今年と来年の境の時期に放送し、大晦日という境も境の内容で締める。こうしてみると、最適な時期と最適な取捨選択で1クールが作られていたお話でした。春の日差しのような柚の優しさが様々なものを浄化していく一方で確かに彼女自身も成長していく、そんなバランス感覚も素敵な作品であったと思います。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
関連:
このはな綺譚 感想リスト
このはな綺譚 第1話「さくやこのはな」
このはな綺譚 第2話「春の旅路」
このはな綺譚 第3話「恋待ち焦がれ」
このはな綺譚 第4話「夢の浮き橋」
このはな綺譚 第5話「梅雨送りし」
このはな綺譚 第6話「此花亭怪談」
このはな綺譚 第7話「夏祭りの夜」
このはな綺譚 第8話「かりそめの訪客」
このはな綺譚 第9話「泡沫の…」
このはな綺譚 第10話「姉上襲来」
このはな綺譚 第11話「神様の休日」

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