神にも悪魔にもなれるのは――「マジンガーZ / INFINITY」感想

非承認のあの武器はスパロボに出せるんだろうか(文字通りのスパロボ脳)
マジンガーZ / INFINITY
(C) 永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会
<「現代的再定義」を行う理由>
映画「マジンガーZ / INFINITY」を視聴。10年後を舞台とした本映画は、元の作品を見たことがない僕でも聞いたことはあるフレーズやテーゼを現代的に再定義し突きつける興味深い作品でした。
例えばDr.ヘルの「世界征服」。もはや何のメリットも感じられないこの言葉は、この映画では好奇心による世界と人々の観測という形に置き換えられます。
例えば「神にも悪魔にもなれる」。今となってはマジンガーZだけではとうてい不可能と判るこの言葉は、この映画では発掘された新たなマジンガー、インフィニティの世界の置き換えすら可能にする力によって言葉倒れではない力に置き換えられます。
いかにも現代的な再定義、しかしそれらは一言で言って窮屈です。そしてそのことは作品としてのネックになっていると言うより、甲児達の状況とリンクしている。
<「窮屈さ」というリアリティ>
10年が過ぎ輝かしい実績と共に立場も得た甲児達は、一方でそれ故に様々な制約を受けてもいます。軍人となった鉄也はグレートの武器の使用に制限を受け、その妻であり身重となったジュンはビューナスAの操縦すらままならない。さやかは光子力研究所の所長となったためにあれこれと対応に追われるし、甲児は一線を退き科学者となったにも関わらずこの戦いで当初「分かりやすい正義の希望」となることが求められる。続編にあたって「再定義」された彼らの立場もまた、実に窮屈です。
<可能性を受け継ぐもの>
そんな中、本作のゲストヒロインであるリサのみはそういった制約を受けていません。インフィニティのキーとして作られた超高性能アンドロイドでありながらメモリーが初期化された彼女の精神性は真っ白。天真爛漫な一方でアンドロイド故に甲児達に「難しい言い方」とすら言われる物言いもあり、そして彼らにはできないこともやってのける――物語の果てに彼女は甲児達の子供として「再定義」されますが、それは彼女の特性から自然な成り行きと言えるでしょう。子供というのは私達大人より良さも悪さも真っ白で、状況に追いつくだけで必死になっていく大人より自然に現状に適応し、旧世代の大人にはできなかったことを成せるようになっていくものなのですから。彼女が本作において「神にも悪魔にもなれる」インフィニティのキーであることは、甲児がマジンガーZのパイロットであることを別の形で「再定義」した姿だと言えます。そして再定義であるがゆえに彼女はロボットのパイロットという枷に縛られることなく、Dr.ヘルの操るインフィニティに拮抗する力をマジンガーZに与えるという形でその「神にも悪魔にもなれる」力を表現する。新世代の力が「大人を勇気づける」形で表現されているのは、大人が見ることを意識した本作にふさわしい方法なのではないかなと思います。
<大人にできること>
「神にも悪魔にもなれる」祖父・十藏の遺言に甲児は「人間は神にも悪魔にもなれない」と答えます。戦いを終えたさやかは、人類にはまだ全ての苦難を乗り越えるような力は無いと語ります。けれど甲児は悪魔にはなりたくないとも、さやかは次は上手くやってみせますとも答える。神にも悪魔にもなれるとしたらそれは未来の世代であり、私達にできるのはその可能性を押し広げ繋いでいくことなのでしょう。甲児のさやかへのプロポーズが「子供を作ろう」なのは劇中でツッコまれるようにデリカシーには欠けるのですが、彼が不定形(可能性、あるいは本作のDr.ヘルが人類の弱点とする多様性)のままであった2人の将来から確かに1つを選び取り、未来へと繋げていくのだという意思も感じ取ることができました。もっともこのご時世、彼と同じ選択肢を全ての人が取るわけでも取れるわけでも叶うわけでもないのですが、そのあり方も鉄也や甲児のようなパートナーを持たないボスの活躍によって肯定されていたように思います。本作のボス、コメディリリーフではあっても間抜けではない。というか「やれることをやる」彼の姿は実に格好いい。
そういうわけで、おっさんになったかつてのヒーローが現役復帰というハリウッド的なものではなく(パンフレットでの永井豪への藤津亮太のインタビューより)、元作品の10年後という「未来を選ぶ」段階の甲児の姿を描いた本作は、いわゆる続編的な作品として独自の立ち位置を獲得できたのではないかなと思います。単なるリバイバルでも新世代ものでもない、面白い作品を見せていただきました。既存の武器を(少なくともスパロボ知識では)新鮮な使い方をしているアクションなども見ていて楽しかったですし、興味のある方にはぜひ見ていただきたいです。
<1/28追記>
マジンガーZでMX4Dを初体験。作品自体は2回目で自分の中で話の筋が通ってるので、動くシートに素直に身を預けられて気持ちいい。乗り込むロボと相性いいなこれ、遊園地気分。
— 闇鍋はにわ (@livewire891) 2018年1月28日
なお1番傑作なのはボロットがヒップアタックやお尻ペンペンするシーン。客の尻まで刺激するなしw#マジンガーZInfinity
あと統合軍司令はそのつもりで聞かないと石丸博也さんだと分からないレベルで声を作ってるのだが、それがすごく優しいなと思った。甲児の面影の残った声だと、たぶん観客がそっちに引きずられてしまう。あの声にしないといけなかったんだなと。#マジンガーZInfinity
— 闇鍋はにわ (@livewire891) 2018年1月28日

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