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短くとも太く――「竹刀短し恋せよ乙女」3巻(完)感想

竹刀短し恋せよ乙女(3) (角川コミックス・エース)

 原作・黒神遊夜、漫画・神崎かるなの「竹刀短し恋せよ乙女」最終3巻を読了。絵に書いたような打ち切り展開、描くはずだったバトルは皆が集合してキング・クリムゾン!なのですが、この慌ただしい構図にむしろテーマ性を感じるのが面白いところだなと思います。

 決着を付けた龍之介と虎春達の前に現れたのは共通の父である忠勝。その目的は「近種交配(インブリード)」による自己の技の保存なわけですが、彼の手勢は実にインブリード的です。妻に結成時の番号持ち、自分の娘と交わり産ませた孫であり娘でもある月夜。その集団は統一感にあふれ、存在するだけで忠勝の狂的な思想を体現しています。
 そして一方の龍之介達と言えば、逆にごちゃまぜもいいところ。かつて敵対した龍之介と虎春を筆頭に、忠勝の間者であった(そして裏切った)エマや祖父から「跳ね馬」の才を受け継がなかった吹雪、仇として鳴神寅を「半殺しずつ」にしようとする桜と北川など全く統一感がありません。すなわち近種交配の対極として触れられる「雑種交配(アウトブリード)」こそは龍之介側が体現するものであり、彼らが勝利する事は単なる武力のそれではなく、思想における勝利ともなる。個人的には八寝間齊天の棒術が見られなかったのはとても残念ですが、両者の激突という図が描かれただけで1つ成せたものはあるのではないかなと思います。
 そして読み終えて感じたのは、本作は武術を描いた作品であると同時に、登場人物が家族に代表される人間性を取り戻していく物語なのだなということでした。

 家族という人間性、それをもっとも象徴するのはもちろん虎春です。桜の「恋敵」として龍之介にいびつな執着を見せていた彼女でしたが、実は龍之介の異父妹でありその恋情や諸々の行動は兄への接し方が分からないからであったことが判明します。父・忠勝と母・寅が虎春とまっとうに家族として接しなかったせいですが、彼らと虎春には大きな違いがあります。彼らはあくまで虎春を技を受け継ぐための道具としか見ておらず、そもそも虎春が龍之介に見せたような愛情そのものが無いのですから。ならば忠勝達はただ否定され、虎春はその感情の表し方を知れば迎え入れられることができる。それは、人間性を取り戻せるかどうかという大きな違いです。
 これはもちろん虎春に限ったことではなく、例えば北川は虎春に敗れこそしましたが、そこに隠されていた「龍之介の義兄に相応しくありたい」という願いそのものは叶えられ、大きな喜びに繋がります。義兄とは家族ですから、これもやはり人間性に当たる。
 また龍之介にしても、母を寅に打たれる前の弱さや復讐によって歪み始めていた性根は桜によって正され、ちゃんと笑えるようになり友とまた話したいと願うようにすらなる。それは劇中で初めて現れた時からは想像もできなかった、確かな彼の人間性。そして短剣道一本だった桜もまた、恋を経て大人(人間)の階段を1歩進んでゆく。

 恋、とは生物的な欲求の発露でもありますが、同時に忠勝のように計算で自分の遺伝子を残せればいいという無機的なものでもありません。それが武術と並ぶ物語の二本柱に据えられていた点からは、後身である「武装少女マキャヴェリズム」へ連綿として続く作家性と呼べるものであったように思います。良い読書体験でした。

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