距離の近さは心の近さ――「ゴールデンカムイ」9話感想
- CATEGORY: Wisp-Blog
- TAG: アニメ_2018年春アニメ

描写が省かれようが谷垣ならそりゃみんな懐くわという納得感。
ゴールデンカムイ 第9話「煌めく」
©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会



「ゴールデンカムイ」9話を視聴。今回は心の距離や住む世界の異同といったものが、多くの場面で物理的な距離に反映されているのが印象的でした。冒頭、死体が見つかった辺見は杉元を連れてアシリパのところを離れます。向かう先は人気のない、2人だけで殺しあえる場所――つまりそれは殺人鬼としての性分を互いが発揮できる、他の人が心理的にも物理的にも立ち入れない場所に他なりません。
正体がバレた後の海辺の戦いは2人も「いい笑顔」を浮かべ、他の人間が迫りながらも画面に映ることはなく(アシリパは弓で援護するのみであり、杉元の近くには駆け寄らない)、それはセックスに置き換えられるほどの密着した最接近となります。普通の漫画ならアシリパが杉元を「自分の方に駆け戻らせる」ようにすると思うのですが、言葉の通じる化物である辺見を言葉の通じない化物であるシャチに寝取らせて突き放しちゃうあたりが苛烈だ…… 刺青人皮をシャチから取り戻す、という目的は同舟によって近い距離で表現されますが、辺見の皮を剥ぐ行為は1人船上に残った杉元によって行われ、アシリパ達は立ち入れません。白石は「あいつが1番おっかねえ」と語りますが、そこにはまさしく断絶があるのでしょう。
鰊御殿に親方と協力を持ちかける鶴見中尉が一緒にいるのも「距離」の描写ですが、そうした描写は後半においても見ることができます。チセの中という非常に近い距離で尾形達に突然接近された谷垣は必然的に一等卒の立場に戻らざるを得ず、それは軍人という「住む世界」が同じであればこそのことです。だからこそ、誤解や疑念といった要素がありながらもチセの中では平和に事が済むわけですが――尾形が谷垣への疑念を確信に変えたのは、チセを出る寸前のやりとりでした。つまり距離が「離れる」瞬間、敵意は決定的なものとなったのです。谷垣が尾形達の正体に気付いた(第七師団でも何者でもなく敵と認識した)のもまた、距離が離れ銃撃を受けてからでした。
谷垣が村にどれだけ馴染んでいたのかは、涙以上に手の触れ合う様々な「距離」によって表現されています。手当のためとは言えアイヌの被り物までした彼は療養の間確かにコタンという世界にいたのであり、鍋を兜代わりにするアシリパの祖母やオソマもまた、谷垣と同じ世界にいる。そして「ニヘイゴハン」に象徴されるようにある意味アイヌに近い性質を持っていた二瓶の遺品の銃もまた――さて、残り1発の銃弾で、谷垣はどのような反撃をしてみせるのでしょうか。
関連:
ゴールデンカムイ 感想リスト
ゴールデンカムイ 第1話「ウェンカムイ」
ゴールデンカムイ 第2話「のっぺら坊」
ゴールデンカムイ 第3話「カムイモシㇼ」
ゴールデンカムイ 第4話「死神」
ゴールデンカムイ 第5話「駆ける」
ゴールデンカムイ 第6話「猟師の魂」
ゴールデンカムイ 第7話「錯綜」
ゴールデンカムイ 第8話「殺人鬼の目」

にほんブログ村
【言及】
https://tiwaha.blog.fc2.com/blog-entry-962.html
http://84870.blog13.fc2.com/blog-entry-4539.html
http://koisananime.com/now/2018/06/gdk-9.php