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越えられぬ壁、共に見る壁――「スパイダーマン:スパイダーバース」感想





スパイダーマン:スパイダーバース
© 2018 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

 「スパイダーマン:スパイダーバース」を視聴。皆さんは自分と誰かが「違う世界に生きている」と感じたことはありませんか? 自分の好きな音楽を他の人も好きとは限らないし、他人にはどうでもいいことが自分には許せないこともあるし、意中の女の子の肩に手を置いて「ヘイ」なんて仕草が決まる人もいれば欠片も似合わない人もいる。私達はそれぞれ異なる感性、価値観、能力の壁に遮られて生きている――ある意味それは、私達1人1人が平行世界で生きている、と見ることができます。それは血を分けた肉親ですら例外ではない。
 本作の主人公であるマイルスもまた、その平行世界に悩んで暮らしている少年です。家の周囲では仲の良い友達もたくさんいるけれど、通っている遠方のエリート学校の連中は勝手が違ってルームメイトとすら口もきけていない。一方で彼は学校をクビになるために「わざと0点を取れる」くらい優秀で、教師はマイルズの狙いと違ってそれを見通してしまう。警官の父ジェファーソンの教育方針はどうも性に合わず、マイルスはむしろ、かつて父と非行に走り今もアウトローの叔父アーロンの方を尊敬している。幾多の人の平行世界の「壁」にぶつかり、同時に彼は自分の居場所を、自分の世界を定める「壁」を作れずにいます。それはクモに噛まれて特殊能力を手にし他の世界のスパイダーマンと会った後も同様で、経験豊富な他の世界のスパイダーマンのようにはとても上手くやれません。


 「壁」はけして消えてなくなりません。平行世界の妻子を自分のもとに呼び寄せようとしたキングピンの企みは失敗するし、平行世界から来たスパイダーマンはモノクロ、日本アニメ調、カートゥーン風といったデザインと同様にこの世界に完全に馴染むことができず帰還せねば死んでしまう。スパイダーマンは自警団のようなものだから、同じく正義を志向しても(父が勤める)警官と同じにはなれない。異世界からやってきたピーター・パーカーも、自分の世界での辛い経験をした親族や妻とこの世界でやり直したりすることはできない。

 けれど「壁」は消えなくともその向こう側とやりとりすることはでき、こちらとあちらは案外あっさりと繋がっていたりもします。尊敬する叔父アーロンは実は悪の組織の怪人であったり、それでも彼は確かに叔父でありマイルスを助けたり今際の際に彼の背中を押してくれた。父と叔父は同じ非行に走った過去から警官とアウトローで道を違えた(壁を作った)けれど、それでも互いやマイルスを思っていた。アーロンの死に対するマイルスの痛みを仲間がを芯から芯まで理解することはできないけれど、それぞれが似たような経験をしていて一部を共有することはできる。
 アーロンの死を伝えに行くも部屋から出てこず口もきかない(実際はウェブに絡め取られてるのだが見えない)マイルスに対し、ジェファーソンはそれでも壁向こうの彼に言葉を送り、マイルスが壁に寄り添ったのを感じて戻ります。壁は消えない。しかし気持ちを交わすことは不可能ではないのです。
 人には各々に壁があって、それを越えることは何人たりともできない。だからキングピンとの決着はスパイダー・ピープル全員ではなく同じ世界の住人であるマイルスのみに託されるし、マイルスの父への抱擁はスパイダー・スーツ越しで父には誰なのか分からない。しかし人は時には同じ壁を見る(近しい感じ方をする)こともまたできるのです。異世界のスパイダー・ピープルが本作を通してそれぞれ何かを感じて帰ったように。マイルスがかつては叔父に、エンディングでは父に肩車してもらって(つまり視界を縦に並べて)壁に絵を描いたりするように。それこそは、溶け合うようには分かり会えない私達にとって程よい距離なのでしょう。



 世界に名だたるビッグ・コンテンツながらスパイダーマンにほとんど触れてこず、ペニー・パーカーちゃんの蜘蛛の糸にホイホイと捕まって映画館に行ったのですが、「自分と他者の世界の違い」を強く意識するようになった最近の僕にベストフィットする作品でした。ヒーロー集合のシチュエーション、コミカルさ、ドラマティックさ、アクション、暴力の域に達しているとすら言える怒涛の映像。この映画のどこに魅力を感じるかはもちろん人それぞれでしょう。けれどスクリーンという壁を見る多くの人が楽しいという気持ちを共有できる可能性の高い、とても懐の広い映画だったのではないかと思います。2時間余すことなく堪能させてもらった、素晴らしい視聴時間でした。

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