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過去への敬意、未来への誠意――「未来のミライ」感想


 初めて見ました、細田守監督作品。



未来のミライ
©2018 スタジオ地図

 「未来のミライ」を視聴。主人公のくんちゃんの家は5段に分かれ、他の部屋に行くには1段1段上り下りする必要があるようになっている。常に同じ高さにはいられないわけだが、この構造は過去と未来が入り乱れる本作において示唆的だ。


<ボクは、誰だったの?>
 甘えたい盛りのくんちゃんはまだ4歳。母親が帰ってくればまた以前(過去)のような日々が戻ってくると思っていたのだが、父も母も新しく生まれた妹の「ミライ」ちゃんにかかりきりでまるで構ってあげられない。以前と同じ高さにいられないのだ。くんちゃんにとって特にショックなのは「お母さん」「お父さん」と呼んでも反応してくれないことで、「お父さんはお父さんなのか」「お母さんはお母さんなのか」、ひいては「自分は何者なのか」という疑問すら湧き上がってくる。この自己と他者の定義の疑問こそは、本作の経糸と言っていい。人間化したゆっこや未来のミライちゃんに出会う不思議な出来事は、いつだってくんちゃんがその疑問に突き当たった時に現れている。

 自分は何者なのか。私達がそれを考える時、多くの場合最初に浮かぶのは自分の好み、身体的特徴、性格などだろう。しかしそれらは言ってみれば点としての理解であり、集団の構成員としての自分が何者なのかを考えるには十分ではない。自分が何者かを知るには、自分と関係する他者についても知らなければならない。そしてその他者とは、直に接している他者だけとも限らない。
 くんちゃんは不思議な出来事の中で、直接には接することのできない様々な人に巡り合う。かつてくんちゃんに愛を奪われたと感じているゆっこに。こっぴどく叱られた幼いおかあさんに。新幹線ではないけど乗り物好きだった曽祖父に。そうしてくんちゃんは、数え切れない出来事が連なって自分に至っていることを知っていく。今の自分とは過去に何があって生まれたものなのか――そういう、歴史的な意味での「自分は何者なのか」を知っていくのだ。


<ボクは、誰?>
 過去を知ることは歴史的な意味で「自分は何者なのか」を知ることだが、しかし歴史とは常に更新され続けるものであり、過去だけでは「自分は何者なのか」はあっという間に「自分は何者だったのか」に変わってしまう。くんちゃんが1人で家の中心だったのは、ゆっこからそれを奪いまたミライちゃんに半ばそれを奪われるまでのごく限られた時間に過ぎない。過去と現在と未来がごちゃまぜになったままでは「自分が何者か」もまた迷子になってしまう。
 終盤でくんちゃんが迷い込む東京駅は未来的で現代にはない新幹線が走っているが、同時にくんちゃんが乗車した架空の磯子駅はむしろ古いくらいだし、くんちゃんが東京駅直前に見るのは未来ではなく現代で走っている列車である。ここでは、過去と現在と未来がごちゃまぜになっている。だから、自分を証明できない者はひとりぼっちの国に連れて行かれるし、脱出しても自分の時間を索引から探さなければ帰れない。歴史的な意味まで含めた「自分は何者なのか」を解決できなければ、過去にも現在にも未来にも行くことができない。

 ひとりぼっちの国とは単に父母妹からの迷子ではなく、自己に繋がりまた自己から繋がる全てに対する迷子の行き着く先に他ならない。そこに陥らないために必要なのは「多くの過去が積み重なって自分が成り立っている」こと、また「自分が積み重ねる多くのものが未来になっていく」ことを知ることだ。そしてそれは、過去と未来の狭間にある「現在の自分は何者か」知るのと同じ意味を持つ。だからくんちゃんは、過去にはなく未来に通じる自己認識を獲得する。「くんちゃんは未来ちゃんのお兄ちゃん!」と叫ぶのである。


<ボクは、誰になっていくの?>
 家の階段を上り下りするように、多くのものが過去から未来へ移り変わっていく。じいじやばあばといった呼び方が、くんちゃんを起点として生まれるように。おとうさんもおかあさんも、その役割の完成とは程遠い状態なのを認識して始めなければならないように。最初は目も見えなかったミライちゃんが、劇中でも驚くほどの速さで成長していくように。そしてその間に起きる出来事全てが過去になり、未来へと繋がっていく。未来ちゃんのお兄ちゃんである自分を見つけ出したくんちゃんも、これから更に色々なものを獲得していくだろう。その一里塚たるぶっきらぼうな男子高校生は今のくんちゃんからは想像もつかないけれど、少しずつあんな風になって、そしてまたそこから変化していく。

 過去は一段一段刻まれてきた。そして、未来もまた一段一段刻まれていく。私達に必要なのは、自分もまたその一段一段を刻む存在なのだという認識なのかもしれない。過去に敬意を。そして、未来に誠意を。


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